#読むマリ written by “友達”

2年ぶりの実家。正月は不思議といつも晴れる。山々の稜線と透き通ったシアンの境目をくっきり望む裏庭。肩より低くなったブロック塀から、お隣さんの手入れされた庭が目に入る。門前の、足がすっぽり嵌まりそうな側溝の穴も小さくなった。
我が家は「もったいない」と、いつまでも雑誌を捨てる気配がない。PDFという概念がまだ渡来していないようだ。20年前の裏表紙のチャチな広告。『東京にあるアートの専門学校』の宣伝文句に『大気圏を抜けよう』と、もがいた記憶が蘇る。雑誌を赤本に変えてしまった自分に少しだけ別の世界線を覚える。
Yellow Studs『脱線』。俺の人生を狂わせた(※事実)一方で、岐路に立ったとき、いつも指示をだしてくれるアンセム。短くシンプルで、破壊的で、直線的なところが機関車だ。だから、あえて積み木を崩したくなる。ノルアドレナリン。
前述の曲がストレートなら、マリ『サテライト』はスライダー。サテライトだけに、軌道は弧を描いている(※厳密に言えばそうでもないのだが…)。誰もが挑戦に寛容になれる。セロトニン。『既定路線』というように、この国の人は、人生を『レール』に例えることが好きだ。しかし、ここを『衛星の軌道』としたのがマリの妙だ。
サテライトとは、文字通り衛星で、これは惑星の周りを回る天体のことだ。つまり、地球にとっての月である。同じところをグルグル回っていて、これは地球の向心力によるもの。〈はみ出したって飛べるさ〉というのは、まさにその通りで『進む力』を大きくすればその軌道から飛び出し、また別のどこかへ向かって浮遊できる。この『閾値を出るはみ出し力』、つまり『ひと漕ぎ目』だけが重たいのだ。
さらに踏み込むと、『人間関係』も『軌道(=orbit)』にみえる。ずっと一定の距離の不思議な星、『月』は兄弟姉妹。かみさんは文字通り、神さん、つまり『太陽』。たまにだが、定期的に連絡がくる遠い親戚は、公転周期133年の『スイフト・タットル彗星』かもしれない。急接近したと思ったら、その後一生会わない人、こういう『星』も確かに存在する。そして、たまに『隕石』にも遭遇する。ビックリするが、それが新しい生命を生むかもしれない。
さて、別のアプローチも。
〈機能性を保たれたファーストフライト〉⇆〈ひび割れた滑走路〉
〈死ぬまでにやるべき事〉⇆〈生きるためにやるべき事〉
という繊細な対比。
〈二度とここには戻“ら”ない〉
〈二度とここには戻“れ”ない〉
このあたりを深掘りすることもできる。
〈別れゆく友よさらば〉
〈飛び立てばさよなら〉
これはロケット燃料と、搭載物(=人工衛星自体)が切り離される様を示唆しているのかもしれない。
結局、「人生は思い出づくりにすぎない」と、いうのが今のところの結論だ。厭世的にカッコつけると、やはり「生きている意味はない。しかし、死ぬ理由もない」といったところか。今の世のいう「―するべき」はマーケティングかプロパガンダで、9割5分は、せいぜい直近80年のインスタントな価値観にすぎない。どうあまく見積もっても、残りの4分が150年前からの残り香だ。
こんなに比喩が好きだが、なんでもかんでも『人生とは―』と、メタファるのは軽薄すぎる。しかし、それでも嫌々いうと、人生とは、旅と一緒で『道のり自体が目的』だ。
〈旅はマルで結べない〉
目的地が目的ではない。
サテライトも軌道を逸脱する瞬間が実はキモなのだ。日々のルーティンに飽き飽きしていないか?だったら、脱皮しよう。多くの人は「軌道修正」と言うのが好きなくせに、普段それほど「軌道自体」を意識していない。「軌道」は言い訳のためにあるんじゃない。乗ったり
降りたりするためのものだ。『The Choice Is Yours』。
マリといると、オーバービュー・エフェクトを体験できる。
サテライト
詞:大内啓介
機能性を保たれたファーストフライトの朝
錆一つない翼が 去っていく
縛られずに生きようぜ
別れゆく友よ さらば
ひび割れた滑走路に 悪魔の気配を感じても
Uhhh
Ahyee Ahyee Ahyee
STANDBY 飛び立てばさよならさ
二度とここには戻らない
何も見えない 甘い 青春はファンタジー
死ぬまでにやりたい事
死ぬまでにやりきれないこと
サテライト 巡る全ての軌道から
はみだしたって飛べるさ
Alright
Don't let go
大事なものから 要るものまでただ積み込んで
Don't let go
ワレモノ扱い 揶揄され キワモノ扱い
Uh
Ahyee Ahyee Ahyee
STANDBY 飛び立てばさよならさ
二度とここには戻れない
何も知らない 甘い 青春はエクスタシー
死ぬまでにやるべき事
生きるためにやるべき事
サテライト 旅はマルで結べない
はみだしたって飛べるさ
Alright
Don't let go
Let me go